当院の脳神経外科では脳疾患のみでなく脊椎脊髄疾患にも重点を置いています。 脊椎脊髄疾患の治療は内服や外固定などの保存的治療(手術以外の治療)が原則ですが、病状によっては手術が必要になることがあります。 当科では顕微鏡や術中透視を用いて侵襲(体への負担)を小さくすること、そしてより安全な手術を行うことを理念としております。 腰椎椎間板ヘルニアではヘルニアの状態が条件を満たせば内視鏡を用いた手術も可能です。
また平成28年より術中モニタリング装置を導入しました。全身麻酔中でも神経機能のモニタリングが可能となっています。
最新式の術中モニタリング装置:NIM-ECLIPSE E4
椎間板は骨と骨の間に存在する弾性をもった組織です。これが出っ張り、脊髄や神経根を圧迫する病気を椎間板ヘルニアと言います。腰のヘルニアは有名ですが、頚椎にも生じます。また加齢に伴う骨の変形などで脊髄や神経根が圧迫されている状態を頸椎症と言います。
上肢のしびれや痛み、握力の低下、手が不器用になる(ボタンの付け外しが下手、ペットボトルのふたを開けれないなど)などが代表的な症状です。進行すると歩行障害が生じたり、排尿障害などが生じます。
症状が痛みやしびれなど感覚障害が中心の場合、内服薬や頚椎カラー等による保存的治療(=手術をせずに)を行います。とくに脊髄ではなく神経根の障害が主体の場合、多くの患者様が保存的治療で改善するとされています。ただ1~3か月程度保存的治療を行っても症状が緩和されず仕事や生活に影響が生じている場合は手術が選択肢になることもあります。
一方握力の低下や上肢の筋力低下、歩行障害などが生じている場合は原則手術をお勧めします。これは手術が遅くなった場合、症状の回復が悪くなるからです。
頚椎の手術では前方法と後方法の2つに分かれます。主に脊髄の前方から圧迫されている場合は前方、圧迫が後方からであったり多椎間で圧迫がある場合は後方からの手術を選択します。
前方より椎間板経由で圧迫因子を切除し、除圧します。除圧後椎間板の代わりにケージと呼ばれる支持体を挿入します。術後1~2年でケージの周囲に骨が形成され、骨癒合が完成します。
通常術翌日より食事、離床が可能となります。後療法として2~4週間頚椎カラーの装着が必要です。
〈術前〉赤丸部分で脊髄が圧迫されている
〈術後〉脊髄の圧迫が消失
〈術前〉椎間板を切除した後、チタン製のケージを挿入
〈術後〉ケージの周囲に骨が形成され癒合
骨に小さなトンネルを作り、圧迫因子を切除する方法です。椎間板を温存できるのが最大の特徴です。小さなトンネルでの除圧になるので、この手術は圧迫因子が小さな症例に限られます。
〈術前MRIと脊髄造影後CT〉矢印部で神経根が圧迫されている
〈術後CT〉骨の中にトンネルが掘削されているが、椎間板は温存されている。
椎弓と呼ばれる脊柱管の後方成分を作り直すまたは切除することで脊柱管全体を広げる手術です。
術前
術後
術後脊柱管(赤で囲んだスペース)が拡大している。
後縦靭帯は椎体の後面(脊柱管側)に存在し、背骨を固定する役目を果たしています。薄く丈夫な繊維製組織です。この靭帯が骨化し、大きくなることで脊髄を圧迫する病気を後縦靭帯骨化症と言います。なぜ靭帯が骨化するのか原因は分かっておらず、厚生労働省の特定疾患(難病)にも指定されています。
非常に緩徐に発育するため、ある程度の大きさになるまで発症しないことが多いです。無症候性のものを含めると、日本人の2~3%が保有しているとも言われています。一般に男性に多く、50歳前後で発症することが多いことが知られています。また糖尿病が合併していることも多いです。本疾患の場合、脊髄症(脊髄圧迫による症状:手足のしびれ、歩きにくいなど)をいったん発症しても、かならずしも全例が進行するわけではありません、しかしいったん発症すると自然に軽快することはほとんどないとされています。また外傷などで急激に症状が悪化することがあり、その場合回復率は芳しくないなどの特徴があります。
症状は頸椎症と同様です。上肢のしびれや痛み、握力の低下、手が不器用になる(ボタンの付け外しが下手、ペットボトルのふたを開けれないなど)などが代表的な症状です。進行すると歩行障害が生じたり、排尿障害などが生じます。
頸椎症と同様で、痛みとしびれが主症状であれば薬物などの保存的治療を行います。運動機能に影響が生じている場合は、手術が勧められます。
頸椎症と同様、前方からと後方からの2通りがあります。一般に骨化した靭帯が1~2椎体に限局する場合は前方手術、多椎体に及ぶ場合や前方手術のリスクが高いと判断される場合は後方手術を行います。
椎体および骨化した後縦靭帯そのものを切除します。
術前CT 骨化した靭帯(白い部分)が脊柱管内に存在する(術前)
術後CT 骨化巣は切除された。前方椎体がメッシュケージで再建されている(術後2年)
頸椎症の場合と同一の術式です。
術前MRI(左の写真)とCT(真ん中の写真):骨化した靭帯により脊髄が圧迫を受けている
術後MRI 脊髄の圧迫は解除され、周囲に白いスペース(脳脊髄液腔)が確認される
椎間板は骨と骨の間に存在しており、弾性を持ったクッションのような役割をしています。椎間板が出っ張り、神経を圧迫する病気を腰椎椎間板ヘルニアと言います。腰部への負荷やスポーツ、加齢などが要因とされています。ヘルニアがあっても必ずしも症状がでるとは限らず、症状が無ければ治療は不要です。またヘルニアは時に自然縮小することもあります。
お尻から下肢にかけての痛みやしびれ(坐骨神経痛)や、下肢の限局した部位に痛みが生じます。圧迫される神経によって、症状の出る場所が変わります。多くの場合、痛みやしびれが中心ですが、ときに下肢の麻痺を伴うこともあります。
内服やコルセットなど保存的治療(=手術以外)を行います。多くの場合、保存的治療で症状の改善が得られます。1~3か月程度保存的治療を行っても症状の改善が不十分で、症状が日常生活に影響をもたらす場合は手術が勧められます。
腰椎椎間板ヘルニアの代表的な手術方法です。当科では顕微鏡下で手術を行っております。骨の一部を目の細かいドリルで骨削除し、神経を保護しながらヘルニアを切除します。
術前
術後
赤い矢印で示す黒い塊がヘルニアですが、術後に消失しています。
約1cmの切開部位よりレントゲンを見ながら、椎間板の中に内視鏡を挿入します。椎間板の中からヘルニアを切除します。
切開範囲が小さいので、術後2~3日で退院できるのが特徴です。比較的小型で上下方向に伸展が無いヘルニアに向いている手術です。
腰椎椎間板ヘルニアに対する手術は、一般にLove法と呼ばれる方法で行われます。 2012年より内視鏡にてヘルニアを切除する PELD: Percutaneou Endoscopic Lumbar Disectomy が保険適用となり、日本で徐々に行われるようになりました。近年FESS:Full Endoscopic Spinal Surgeryとも呼ばれますが、同じ手術のことを指します。笹生病院脊髄センターでも、2017年より内視鏡手術を導入しており、術前の検査にて安全に内視鏡を遂行できると判断される患者様には、内視鏡手術を提案しております。
腰椎椎間板ヘルニアにて手術を考えており、内視鏡手術に関心がある患者様は、まずは外来にてご相談ください。
午前中の手術の場合は前日、午後の手術の場合は当日午前に入院となります。 麻酔は原則全身麻酔で行いますが、ご希望の場合は局所麻酔で行うこともあります。手術後3~6時間で飲水が可能となり、ふらつきが無ければ座位・歩行が可能となります。翌日朝に創部を確認し、希望があれば退院可能となります。最短1泊2日で退院可能となります。多くの患者様は、術後2~4日ごろに退院しています。 抜糸は術後7日ごろになるため、外来にて抜糸を行います。
模式図
内視鏡の画像。小さな鉗子でヘルニアを切除している。
内視鏡手術は安全性が担保されて初めてその低侵襲性などの有用性が生じます。骨化病変を伴うヘルニアや変性(腰椎の変形)が強い場合は、安全性の点で顕微鏡手術を勧めることがあります。
腰部では神経線維の塊である脊髄がバラバラになり、多数の神経線維(馬尾と呼ばれる)が走行しております。頚椎と同様に馬尾は骨のトンネルの中(脊柱管)を走行します。トンネルの中に椎間板ヘルニアが突出したり、靭帯が分厚くなってくるとトンネル(脊柱管)が狭くなり、馬尾が窮屈な状態となります。このような状態を腰部脊柱管狭窄症と言います。
また骨と骨の間の連続性が緩くなり骨が前後にずれた状態をすべり症と言います。
坐骨神経痛(お尻から下肢の後ろ側にかけて放散する痛み)や間欠性跛行(立位や歩行によって増悪する下肢のしびれ、ツッパリ感、だるさなどが生じる状態)が代表的です。
薬、理学療法(牽引や温熱治療などによるリハビリ)、ブロック療法、手術など、多岐にわたる治療方法があります。
まずは薬や理学療法を中心とした保存的療法を開始します。これで症状の改善が得られれば手術は不要です。
一方保存的治療では症状を緩和することができず、症状により日常生活に影響が生じたり、下肢の運動麻痺が生じるような場合は、手術治療が勧められます。
骨の一部を削除し、肥厚した靭帯を除去することで脊柱管を拡大します。腰部脊柱管狭窄症に対して最もよく行われる手術です。通常手術翌日より歩行可能であり、術後1~2週間で退院可能です。
術前
赤丸部分で髄液を示す白い
部分が乏しい狭窄部の上方
で、神経が蛇行している。
(赤矢印)
術後
赤丸部分で髄液を示す白い
部分がしっかりと描出され、
上方の神経の蛇行も消失した。
不安定性があったり、腰椎すべり症の場合は固定術を選択します。椎間板を切除して、上下の椎体を癒合させることで症状を緩和するのが目的です。
チタン製のスクリューを用いて固定します。
術翌日または翌々日より離床可能となります。術後2週間程度で退院可能です。術後3か月間はコルセットを着用する必要があります。
PLIF術前
PLIF術後MRI
PLIF術後レントゲン
術前赤丸部分には髄液を示す白いスペースが無かったが、術後に白いスペースが回復している。
骨のずれも元に戻っている。左右2本ずつスクリューを挿入して上下に連結している。
腰椎の骨の一部が疲労骨折して分離した状態をいいます。多くが発育期に発症していますが、大人になってから発見されることもあります。
分離部の炎症にて腰痛が生じます。また長年の経過ですべり症が生じると慢性的な腰痛や神経圧迫による下肢痛が生じるようになります。
分離が生じて間もない時期はコルセット着用で骨癒合を目指します。骨癒合しなかったり、ある程度時間がたってから発見された場合は、除痛を目的とてコルセットを着用したり鎮痛剤の内服を行います。
長年経過してすべり症を併発し、内服で痛みが改善しない場合は手術が必要になることがあります。手術は分離部修復術、または腰椎後方固定術(腰部脊柱管狭窄症、すべり症を参照)等を行います。